東京地方裁判所 平成元年(ワ)2116号 判決 1991年6月07日
原告
瓜生哲也
被告
新谷征勝
ほか二名
主文
一 被告新谷征勝は、原告に対し、三一万三五三五円及び内金二八万三五三五円に対する昭和六二年一月一八日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告小林末尚及び被告幸裕自動車株式会社は、原告に対し、連帯して四〇万二九五七円及び内金三七万二九五七円に対する昭和六二年二月二日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告と被告新谷征勝との間に生じたものはこれを二三分し、その二二を原告の、その余を被告新谷征勝の各負担とし、原告と被告小林末尚及び被告幸裕自動車株式会社との間に生じたものはこれを一六分し、その一五を原告の、その余を被告小林末尚及び被告幸裕自動車株式会社の各負担とする。
五 この判決は原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告新谷征勝(以下「被告新谷」という。)は、原告に対し、七〇四万八二四一円及び内金五二万六六八八円に対する昭和六二年一月一八日から、内金五八九万一五五三円に対する昭和六二年二月二日から、支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告小林末尚(以下「被告小林」という。)及び被告幸裕自動車株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告に対し、連帯して六四七万一五五三円及び内金五八九万一五五三円に対する昭和六二年二月二日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は原告と被告新谷との間に生じたものは同被告の負担とし、原告と被告小林及び被告会社との間に生じたものは同被告らの負担とする。
4 1、2につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
A 被告新谷
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
B 被告小林及び被告会社
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求の原因
一 本件事故の発生
A 被告新谷による第一事故の発生
1 日時 昭和六二年一月一八日午前〇時ころ
2 場所 東京都世田谷区上馬五―二〇―一六先路上
3 加害車両 普通乗用自動車(品川五八む九二二七、以下「新谷車」という。)
右運転者 被告新谷
4 被害車両 普通乗用自動車(以下「原告車」という。)
右運転者 原告
5 事故態様 交差点において前方の信号が赤なので原告運転の原告車が停車したところ、被告新谷運転の新谷車が追突し、原告は外傷性頭頸部症候群、腰部打撲傷等の傷害を負つた。
B 被告小林による第二事故の発生
1 日時 昭和六二年二月二日午後一一時四〇分ころ
2 場所 東京都豊島区東池袋二―六一―五先路上
3 加害車両 普通乗用自動車(足立五五か五三九二、以下「小林車」という。)
右運転者 被告小林
4 被害車両 普通乗用自動車(以下「和田車」という。)
右運転者 訴外和田守
5 事故態様 交差点で赤信号のため停車中の被害車両に加害車両が追突し、被害車両の助手席に同乗していた原告が外傷性頭頸部症候群の傷害を負つた。
二 責任原因
A 第一事故
被告新谷は、前方注視義務を怠り、かつ、安全に運転すべき義務を怠つた過失があるから民法七〇九条にもとづき原告の被つた後記損害を賠償すべき責任がある。
B 第二事故
1 被告小林は、前方注視義務を怠り、かつ、安全に運転すべき義務を怠つた過失があるから民法七〇九条にもとづき後記損害を賠償すべき責任がある。
2 被告会社は、被告小林が第二事故発生当時被告会社の従業員であり、被告会社の業務の執行中に起こした事故であるから民法七一五条にもとづき原告の被つた後記損害を賠償すべき責任がある。
三 損害
A 第一事故による損害
1 休業損害 二〇万七四八八円
原告は、第一事故による傷害治療のため、昭和六二年一月一九日から同年二月二日まで一六日間訴外菊池外科病院(以下「菊池病院」という。)に入院したが、その入院期間中就労することができず、全年令平均給与額(月額)三二万四二〇〇円、一か月の稼働日数を二五日として一日当たり一万二九六八円の一六日分二〇万七四八八円の休業損害を被つた。
2 入院雑費 一万九二〇〇円
3 慰謝料 三〇万円
4 以上損害額合計 五二万六六八八円
B 第二事故による損害
1 休業損害 一七三万七七一二円
原告は、第二事故による傷害治療のため、菊池病院に、昭和六二年二月三日から同月九日まで七日間入院し、同月一〇日から昭和六三年一一月九日まで通院し(通院実日数一二七日)、その入院期間中の七日間及び通院期間中の通院実日数一二七日間の合計一三四日間就労できなかつたので、全年令平均給与額(月額)三二万四二〇〇円、一か月の稼働日数を二五日として一日当たり一万二九六八円の一三四日分一七三万七七一二円の休業損害を被つた。
2 入院雑費 八四〇〇円
3 慰謝料 二九〇万円
(一) 入通院慰謝料 一五〇万円
(二) 後遺障害慰謝料 一四〇万円
原告は、第二事故により外傷性頭頸部症候群の傷害を負い、右傷害で首、背骨の重苦しい痛み、肩凝りなどの後遺障害が残つたから、右後遺障害を慰謝するためには一四〇万円が相当である。
4 逸失利益 一五四万五四四一円
原告は、前記後遺障害により今後一〇年間にわたり労働能力の五パーセントを喪失したので、右後遺障害による逸失利益を全年令平均給与額(月額)三二万四二〇〇円を基礎にホフマン方式、係数七・九四四九で算定すると一五四万五四四一円となる。
5 以上損害額合計 六一九万一五五三円
6 填補 三〇万円
原告は、被告会社から三〇万円の支払を受けた。
填補後損害額合計 五八九万一五五三円
四 第一事故と第二事故との間は、わずか一五日であり、原告は第一事故による傷害が完治しない間に第二事故による傷害を負つたのであるから、第二事故による原告の損害の発生には第一事故も寄与しており、両者の間には相当因果関係があると見るべきであるから、被告新谷も第二事故による原告の損害について賠償責任がある。
五 弁護士報酬
被告新谷は、第一事故による損害額合計五二万六六八八円及び第二事故による損害額合計五八九万一五五三円の合計六四一万八二四一円の支払義務のあるところ、任意の支払いをしないので、原告は、本件訴訟を原告代理人に委任し、弁護士報酬として六三万円の支払いを約し、また、被告小林及び被告会社は、第二事故による損害額合計五八九万一五五三円の支払義務のあるところ、任意の支払いをしないので、原告は、本件訴訟を原告代理人に委任し、弁護士報酬として五八万円の支払いを約した。
六 よつて、原告は、被告新谷に対し、七〇四万八二四一円及び内金五二万六六八八円に対する第一事故日である昭和六二年一月一八日から、内金五八九万一五五三円に対する第二事故日である昭和六二年二月二日から、支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを、被告小林及び被告会社に対し、六四七万一五五三円及び内金五八九万一五五三円に対する第二事故日である昭和六二年二月二日から支払い済みまで右同様年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める。
第三請求の原因に対する認否
A 被告新谷
一 請求の原因一項のAの1ないし4は認め、5については原告が外傷性頭頸部症候群、腰部打撲傷等の傷害を負つたことは知らない。
二 同二項のAは認める。
三 同三項については原告が昭和六二年一月一九日から同年二月二日まで菊池病院に入院したことは認めるが、入院の必要性は争い、その余は不知ないし争う。
四 同四項は争う。
五 同五項は知らない。
六 同六項は争う。
B 被告小林及び被告会社
一 請求の原因一項のBについては原告の受傷部位、程度は不知、その余は認める。
二 同二項のBについては被告小林及び被告会社の賠償責任は否認し、その余は認める。
三 同三項については填補金額は認め、その余は知らない。
四 同四項は知らない。
五 同五項は否認する。
六 同六項は争う。
第四証拠
本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。
理由
一 請求の原因一項のAの1ないし4及び同二項のAについては、原告と被告新谷との間に争いはなく、請求の原因一項のBについては、原告の受傷部位、程度を除き、原告と被告小林及び被告会社との間に争いはなく、同二項のBについては、被告小林が前方注視義務を怠り、かつ、安全に運転すべき義務を怠つたこと、被告小林が被告会社の従業員であり、被告会社の業務執行中に第二事故を起こしたことについては、原告と被告小林及び被告会社との間に争いはないから、被告新谷は、第一事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任があり、被告小林及び被告会社は、原告が第二事故により被つた損害を賠償すべき責任がある。
二 損害
A 第一事故による損害
1 甲第五号証、乙ロ第一号証の一ないし二五、原告本人尋問の結果によれば、原告は、第一事故により外傷性頭頸部症候群、腰部打撲傷の傷害を負い、菊池病院で、昭和六二年一月一八日から同年二月二日まで入院して治療を受けたことが認められる。
被告新谷は、原告の負傷につき争うところ、被告新谷本人尋問に、「体はお互いに何ということないんで、車を修理すればいいからということで別れた」旨被告新谷主張に添う部分があるが、原告本人尋問には、「家に帰り、具合が悪いので医者に行つた」旨供述し、甲第三号証の一、二、乙イ第一号証、乙イ第二号証、被告新谷本人尋問によれば、原告車は被告新谷車が追突したことで前方に押し出され、原告車はリアバンパーフエイス等破損で修理見積代金九万八三〇〇円であり、被告新谷車はヘツドライトサポートパネル鈑金等で修理代金六万三二〇〇円であり、これらから窺われる衝撃の程度等からして、原告の負傷を肯定できる。
しかし、菊池病院への入院の経過、症状の程度等にあつては、同病院へ入院する際には、交通事故の保険金に絡んで刑事事件を起こしたことのある訴外和田守(以下「訴外和田」という。)の運転する車に同乗して同病院に赴き、また、被告新谷に対し、入院に際して呼び出したうえ、ねま着代五万円を持つてくるよう要求し、友人に車を貸す約束をしていたのでレンタカー代を持つてくるよう要求するなどしていることなどからすれば、原告の愁訴に対しては信憑性に疑いを抱かずにはいられない。しかし、入院治療については、菊池病院の医師の判断もあることであり、これを不当とするまでには至らない。
また、原告は、昭和六二年二月二日同病院を退院しているところ、原告本人尋問では、「具合が悪かつた」旨供述するが、同日の午後一一時四〇分ころ、訴外和田の運転する車に同乗していて第二事故に遭つていることからすれば、訴外和田と深夜まで行動を共にして遊んでいたものであり、具合が悪かつたといつても右行動ができる程度であり、治癒に向かつていたものと考えられ、原告の稼働等に影響をあたえるものとは認められない。
2 以上の事実を前提に第一事故による原告の損害を算定すると、次のとおりである。
(一) 休業損害 一六万七五三五円
原告は、第一事故による傷害治療のため、昭和六二年一月一八日から同年二月二日まで一六日間菊池病院に入院し、その間就労することができず、得れるべき収入を失つたところ、原告の収入は少なくとも賃金センサス昭和六二年産業計全労働者平均年収額三八二万一九〇〇円あるものと認められるから、これを基礎に、一六日分の休業損害を求めると一六万七五三五円となる。
なお、原告は、原告本人尋問で月額平均六〇万円の高額な収入があつた旨供述するが、それを裏付ける証拠に欠け、甲第一〇号証、甲第一一号証からしても、原告の収入は右平均年収額とするのが相当である。
(二) 入院雑費 一万六〇〇〇円
原告は、前記入院により諸雑費を要したものと認められるところ、前記傷害の程度等からして、入院雑費としては一日当たり一〇〇〇円、一六日分の一万六〇〇〇円が相当と認められる。
(三) 慰謝料 一〇万円
原告が負つた傷害の程度、入院期間等からして、一〇万円が相当と認められる。
(四) 弁護士費用 三万円
原告は、本件訴訟を原告代理人に委任し、弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の審理の経緯、認容額等諸般の事情によれば、第一事故と相当因果関係のある弁護士費用としては三万円が相当と認められる。
(五) 以上損害額合計 三一万三五三五円
B 第二事故による損害
1 甲第七号証の一、二、甲第九号証、甲第一二号証、乙ロ第二号証の一ないし四二、原告本人尋問の結果によれば、原告は、第二事故により外傷性頭頸部症候群の傷害を負い、昭和六二年二月三日から同月九日まで七日間入院して治療を受け、同月一〇日から昭和六三年一一月九日まで通院(通院実日数一二七日)して治療を受けたことが認められる。
被告小林及び被告会社は、原告の負傷につき争うところ、甲第四号証の一、二、乙ロ第三号証の一、二、被告小林本人尋問の結果によれば、小林車が和田車に追突したことにより、和田車は前方に押し出され、和田車の後部バンパーが少しへこみ、小林車の前部バンパーが少し壊れ、ボンネツトが少しへこんだことが認められ、これらから窺われる衝撃の程度等からして、原告の負傷を肯定できる。
ところで、原告は、昭和六二年二月一〇日から同年八月三日ころまで、ほぼ毎日のように同病院に通院して理学療法等の治療を受けているが、以前から、担当医師に、自分の努力が必要で治そうという意志を持つべきだと言われていること、原告の愁訴も項部痛、肩凝りで、症状は一進一退というものであること、昭和六二年八月三日以後は通院状況も週に一回程度に変化していることなどからすれば、第二事故による原告の損害で被告小林及び被告会社から賠償を受けるべきものは、同日までの損害とするのが相当である。
2 以上の事実を前提に第二事故による原告の損害を算定すると、次のとおりである。
(一) 休業損害 四六万五九五七円
原告が菊池病院に治療のため入通院した昭和六二年二月三日から同年八月三日までの六か月間、入通院のため就労することができず、得れるべき収入を失つたところ、入通院実日数合計八九日間(入院七日、通院八二日)のうち、原告の前記症状等からしてその五〇パーセントを認めるのが相当であるから、前記原告の年収三八二万一九〇〇円を基礎に算定すると四六万五九五七円となる。
(二) 入院雑費 七〇〇〇円
原告は前記入院により諸雑費を要したものと認められるところ、前記傷害の程度等からして、入院雑費としては一日当たり一〇〇〇円、七日分の七〇〇〇円が相当と認められる。
(三) 慰謝料 二〇万円
原告が負つた傷害の程度、入通院期間等からして、二〇万円が相当と認められる。
(四) 右損害額合計 六七万二九五七円
(五) 填補 三〇万円
填補後損害額合計 三七万二九五七円
(六) 弁護士費用 三万円
原告は、本件訴訟を原告代理人に委任し、弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の審理の経緯、認容額等諸般の事情によれば、第二事故と相当因果関係のある弁護士費用としては三万円が相当と認められる。
(七) 以上損害額合計 四〇万二九五七円
三 原告は、第一事故による傷害が完治しない間に第二事故による傷害を負つたことなどから、被告新谷も第二事故による原告の損害について賠償責任がある旨主張する。
しかし、各行為者が原因を与えた限度で責任を負うのが不法行為の原則であるから、全損害中各行為により生じた損害部分を分別しえるときは分別すべきところ、第一事故による傷害は、前記のとおり、昭和六二年二月二日菊池病院退院時において、深夜まで訴外和田と行動を共にできる状態であり、原告の就労等に影響を与える後遺症が残存していたものと認められないことなどからすれば、第一事故による症状が残存していて、そのため第二事故による損害を拡大し、あるいは影響を与えたものとは認められないうえ、第一事故と第二事故は時間的、場所的近接性も認められないから、被告新谷は、第一事故による損害のみを賠償するものとするのが相当である。
また、原告は、後遺障害が残存し、今後一〇年間にわたり労働能力が喪失した旨主張し、原告本人尋問には右主張に添う部分もあるが、原告の治療状況、症状等は前記のとおりであり、菊池病院の診療録昭和六三年一一月九日欄には、頚椎可動域正常、病的反射なし、上肢腱反射すべて正常、神経学的所見特になし、項部痛のみという旨の記載があり、さらに、原告は、平成二年三月一日には逮捕監禁致傷、恐喝で刑事事件を起こしていることなどからして、原告本人の愁訴は信用しがたく、原告に本件事故による後遺障害が残存しているとは認められない。
四 よつて、原告の請求は、被告新谷に対し、三一万三五三五円及び内金二八万三五三五円に対する第一事故日である昭和六二年一月一八日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、被告小林及び被告会社に対する請求は、同被告らに対し、連帯して四〇万二九五七円及び内金三七万二九五七円に対する第二事故日である昭和六二年二月二日から支払い済みまで前同様年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 原田卓)